新型コロナウイルスやインフルエンザなどが話題になっているなか、ウイルス対策としてWHOや厚労省では手洗いに加えてアルコールを使った消毒を推奨しています。
ところで、アルコールでウイルスが消毒される理由をご存じでしょうか。
インフルエンザをはじめとするウイルスにはアルコールが有効ですが、実はウイルスの中にはアルコールを使っても消毒にならない場合もあります。
そこで、ウイルスにアルコールが有効な理由と、手のアルコール消毒の方法に加え、アルコールが効かないウイルス対策についても、久野銀座クリニックの岡村信良先生に伺いました。
アルコールがウイルスに有効な理由は?
ウイルスは大きく分けて「エンベロープ」という膜を持つものと、膜を持たないものの2種類があります。
アルコールが効くかどうかは、ウイルスがこの膜を持つかどうかによって決まります。
アルコールが効くウイルスについて
まず、エンベロープを持つウイルスについて岡村先生に話を伺いました。
「ウイルスは細胞内のみで増殖が可能です。ウイルスの一部には『エンベロープ』という膜があり、この膜によって他の細胞に侵入します。
そのため、『エンベロープ』という膜が壊されれば、増殖できなくなり、感染力を発揮することができなくなります」
エンベロープを持つウイルスの主な例として下記が挙げられます。
● B型肝炎ウイルス
● C型肝炎ウイルス
● SARSコロナウイルスやMERSコロナウイルスを含むコロナウイルス
● インフルエンザウイルス
このウイルス感染症の対策として「アルコールや中性洗剤などで『エンベロープ』を破壊することができます」と、岡村先生は説明します。
エンベロープは大部分が脂質で構成されているため、アルコール以外でも、石鹸を使うといったことでも膜を壊せるので、有効なウイルス対策になります。
新型のコロナウイルスには効く?
新型のコロナウイルスに対しては、効果が見込めるのでしょうか?
岡村先生は「新型のコロナウイルスもエンベロープを持つタイプのウイルスです。そのため、アルコール消毒が有効です」と話します。
人に感染を起こす同様のコロナウイルスは6種類が確認されていますが、この中には「中東呼吸器症候群(MERS)」や 「重症急性呼吸器症候群(SARS)」などの、重症化傾向のある疾患の原因ウイルスも存在します。
残りの4種類のコロナウイルスに関しては、一般的な風邪の原因の10~15%(流行期は35%)を占めています。
いずれも「コロナウイルス」のため、アルコール消毒が有効です。
消毒の使い方・量はどのくらい使うべき?
アルコール消毒を使用するタイミングもやはり大事になってきます。
岡村先生は「外から室内に戻ったあと、調理の前後、食事の前、トイレの後などに消毒をしましょう」と話し、感染する可能性のある場所を想定して、アルコール消毒を用いることをすすめてくれました。
続けて、アルコール消毒の正しい使い方についても教えてくれました。
「一般的なスプレー式のアルコール剤は、1プッシュ約3ml(ジェルタイプは1回量2ml目安)なので、1プッシュを手に取ります。
手の水分をしっかり取ってから、アルコールを手指から手首まで隅々と、揉み込んですり込ませるよう、まんべんなくつけ、乾燥させます」
あわせて、アルコール消毒を使う際の注意点も伝えてくれました。
「濡れた手でのアルコール消毒は、アルコール濃度が薄まってしまうため、効果が薄まります。
また、アルコールの量の目安として、アルコール消毒液を吹きかけ、15秒以内で乾く量は、消毒効果は薄いとされています。
ドアノブやテーブルは、ペーパータオルなどにアルコール消毒液を含ませて拭き、自然乾燥させましょう」
アルコール消毒が効かないウイルスの予防策
ウイルスのなかにはアルコールが有効でないウイルスも存在しています。アルコールが効かないウイルスに共通しているのは、「エンベロープ」を持たないウイルスであるという点です。
このウイルスについて、岡村先生に話を聞きました。
「膜のないノンエンベロープウイルスは、アルコール消毒剤や熱に対する抵抗力が高いため、塩素系漂白剤で消毒する必要があります。
経口感染のポリオウイルスや、経口感染、糞口感染、血液感染のA型肝炎ウイルスは、一般的なアルコール消毒では効果が期待できません」
しかし、その一方でこんな話もしてくれました。
「ただ、近年はノンエンベロープウイルス(ノロウイルスやロタウイルスなど)にも有効な酸性アルコール消毒剤もあります」
購入する際には事前に確認するようにしましょう。
アルコール消毒が効かないウイルスに感染した場合には
アルコール消毒をしていてもウイルスに感染してしまった場合、どのように対処したら良いのか解説してもらいました。
「感染ウイルスによって異なります。ノロウイルス、ロタウイルス の場合、特効薬はないので、対症療法です。主には水分と栄養の補給を行います。
また、次亜塩素酸ナトリウムなどを用いて、嘔吐した場所や触れた場所など身の回りを消毒します。ポリオウイルスの場合は、鎮痛薬と解熱薬を使い、安静に過ごします。
看病する方はビニール手袋や使い捨てエプロン、マスクなどの感染対策をし、看護の前後は手洗いをしっかりしましょう」
アルコール消毒が効かないノロウイルスをはじめとするウイルス性食中毒の場合は感染経路の特定が重要です。
食品だけでなく、感染者の便や嘔吐物の中に大量のウイルスが存在するため、汚物の処理のときなどに手にウイルスが付着します。
この手を経由して、蛇口や洗い場にもウイルスが広がるため二次感染につながります。
看病をする人もしっかりと対策をするように心がけましょう。
そのほか消毒として使える身近なモノは?
岡村先生には、アルコール消毒以外で同様の役割を持つ方法がないかも尋ねました。
「石けんを用いて流水でしっかりと手洗いすることが大切です。
ドアノブやテーブルなど、手指以外であれば『次亜塩素酸ナトリウム』でも代用できます」
次亜塩素酸ナトリウムは自分で作れる!ただし使用には注意点も
塩素系の消毒剤となる「次亜塩素酸ナトリウム」を消毒液として使うには、塩素系漂白剤を水で薄めることで作れます。
下記のように消毒する場所に応じて希釈する濃度が異なるため、消毒液をつくる際には注意しましょう。
●便や吐物が付着した床やおむつなど ⇒ 原液(濃度5%)の希釈倍率:50倍
●衣服や器具などのつけ置き、トイレの便座やドアノブ、手すり、床 など ⇒ 原液(濃度5%)の希釈倍率:250倍
市販の塩素系消毒剤の原液の濃度は1~12%程度と幅がありますが、家庭用塩素系漂白剤の濃度はおよそ5%です。
次亜塩素酸ナトリウム消毒液を使う際は注意を
アルコール消毒とは異なり、次亜塩素酸ナトリウムの消毒液には使う際に注意が必要です。
使用上の注意点を下記にまとめました。
● 皮膚に対する刺激が強いため、手洗いなどには使わない
● 使用時は直接皮膚に触れないように、ビニールなど樹脂製の手袋を使用する。消毒液が皮膚についてしまった場合はすぐに水で洗い流す
● 換気をしっかりする
● ほかの洗剤と混ぜない。とくに酸性の洗剤は有毒ガスが出るため注意
● 腐食性を持つため、金属に使用する場合は水で洗い流すか拭き取る
事前に注意点を確認してから使いましょう。
ウイルス対策の観点ではタオルの「おしぼり」は要注意
食事をする際に、手洗いができないような場合もありますよね。飲食店などで「おしぼり」を利用することもあると思います。
この「おしぼり」には、タオルを使っている場合がありますが、手を拭いたあと、テーブルの上においたり、袋の中に戻したりなど、人によってさまざまな使い方をしています。
ウイルス対策の観点からタオルの「おしぼり」について岡村先生に話を聞きました。
「一般的なおしぼりは手の汚れを落とすことがメインのものですが、近年、おしぼりの中には、除菌、抗菌、抗ウイルス作用があるものもあります。
ただし、手を拭いた後は、手の雑菌がおしぼりにうつるので、その後、袋に入れたり、放置したりすれば、雑菌が繁殖することはあります。
特に、湿りがあって菌が増殖しやすいので要注意です。タオルの共用は感染を拡げることもあります」
おしぼりを使う際には、感染のリスクを広げないように注意しましょう。